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AR技術の習得をサポートし、世の中に通用する実践力を育成

デザイン工学部システムデザイン学科
岩月 正見 教授 

  • 2018年8月2日 掲載
  • 教員紹介

世界初のAR(拡張現実)アプリケーション開発など、市場価値の高いモノづくりの指導に尽力。製品化に向けた資金調達の仕組みとなる、クラウドファンディングの始動にも貢献しています。

現実世界と仮想世界を融合するARアプリの開発を指導

AR(Augmented Reality、拡張現実)技術を利用したアプリケーションの開発を、学生の手で実現できるように指導しています。

ARは、現実世界と仮想世界を融合する技術です。ゲーム機で話題になったVR(VIrtual Reality、仮想現実)は、視界を覆うゴーグルを装着し、目の前に実在しない仮想世界を展開させます。それに対してARは、スマートフォンなどの身近なアイテムを利用して、目の前にある現実の風景画像に、仮想的な情報を付加して表示させるのです。

ARのアプリケーション開発は、あらゆる分野への展開が考えられますが、私は学生が興味を持ちやすいエンターテインメント分野からアプローチしています。楽しみながら取り組むことで、自発的な探究心やモチベーションの喚起につながると期待しているからです。

手応えのある作品が完成したら、その作品の市場価値を世の中に問うために、企業が主催するビジネスプラン・コンテストなどへの参加を促しています。すでに多くの作品で高い評価をいただき、世界に先駆けて開発した「重力を感じるARアプリ」は、2015年に森永製菓が主催したビジネスプランコンテストで入賞。「チョコボールAR toyシリーズ」としてお菓子のパッケージを利用して遊べる全12アプリケーションの商品化が実現しました。

学科全体の技術力向上を図る新たな試みを始動

デザイン工学部システムデザイン学科では、クリエーション系(工業デザイン)、テクノロジー系(工学的な技術力)、マネジメント系(コスト管理や効率性)という、三つの領域を横断した総合力の育成を目指しています。

学生たちは、モノづくりに関わるすべての過程を授業の中で実習体験します。企画に始まり、コスト管理をしながらの製作、作品の魅力を伝えるプロモーションまでを一貫して体験することで、社会に出たときの実践力を身に付けるのが狙いです。図らずも、法政が大学憲章で掲げた「実践知」を具現化した学科だと思います。

自分たちの作品は世の中に受け入れられるのか。どの程度の市場価値があるのか。それを知るには、学内の成績評価だけでなく、第三者の客観的な評価を得ることが重要です。そこで、クラウドファンディングのサイトを企画・運営する会社のCAMPFIRE(キャンプファイアー)と提携し、2017年に「法政大学 × CAMPFIRE(※)」を立ち上げました。

クラウドファンディングは、インターネットを通じてプロジェクトを発表し、支援の形で資金提供を募る仕組みです。多くの人から賛同を得ないと目標達成は難しく、認められれば大きな自信になります。そうした意味で、クラウドファンディングは「究極の外部評価」といえるでしょう。

すでに、学科内の発表会で高評価を得た四つのプロジェクトが公開され、うち二つが目標金額を達成し、製品化に取り組んでいます。質の高い作品を世に出すと、波及効果は学外にも広がります。新しい力を呼び込み、企業との連携もしやすくなるなど、大学と社会をつなぐ好循環が生まれるのです。今後も、製品化を望まれるような作品を生み出し、学部・学科全体の技術力底上げにつなげたいと願っています。

子どものように発想し職人として実現させる

3Dプリンタの登場で、成形が格段にやりやすくなるなど、技術者を目指すものにとってモノづくりがしやすい、恵まれた時代になりました。

しかし、モノづくりで最も重要なのはアイデアを発想する力です。アイデアは一朝一夕で生まれるものではありません。年齢や経験にも関係なく、教えて身に付くものでもありません。ただひたすら、諦めずに考え続けるしかないので、私自身、常に頭のどこかで、アイデアの糸口を探しています。

ようやく思い付いたアイデアも、リサーチすると、すでに実現されていることも多く、千個考えても残るのは一つか二つ。それだけ貴重なのです。

技術者として目指したいのは、子どものようにアイデアを発想し、職人としてそれを実現すること。突拍子もないアイデアだとためらわずに、表に出すことが大切です。現実で形にすることは難しくても、ARやVRを駆使することで、実現の可能性が高まることもあります。こちらが驚くような斬新な発想の登場を期待しています


近い将来、10兆円市場への発展が期待される成長産業で活躍する人材を育てたい

もともとは、画像処理を駆使したロボットビジョンに関する研究を手掛けていました。ロボットビジョンとは産業用ロボットのための人工的な視覚として、センサーやカメラなどを利用して形状や距離を計測した画像をコンピューターで解析することで、物体の3次元構造を正確に復元する技術です。このシステムを応用すると、現実世界の物体をCGで作成された仮想的な空間に取り込むためのツールとしてAR技術に転用できます。

ARの手始めは、研究というよりは、教育用のテーマとして手掛け始めました。学部再編でデザイン工学部システムデザイン学科が創設された折に、学生が興味を持って学びやすいテーマとして画像処理技術の粋を集めたAR技術を教えることを考えついたのです。

授業に導入した頃は、まだツールが成熟していなかったので、試行錯誤することも多くありました。それでも、仮想的に表示されるオブジェクトやキャラクターを自分で動かした結果が目に見えるので、学生の研究意欲は刺激されたようです。学生たちの反応からニーズの高さを感じ、研究室でも本格的に取り組むようになりました。2014年に、仮想世界の鉄球を転がしてゴールに導く3D立体迷路パズル「TekkyuAR」が誕生し、NTTドコモ主催のコンテストで最優秀賞を受賞したことが、ARアプリ開発を加速化させるきっかけになりました。

近年は、音声認識などの優れた技術ツールがAPI(※)として提供され、プログラミングの経験が浅い学生でも開発を手掛けやすい環境になりました。すでに、ARと音声認識を組み合わせて、キャラクターが自在に動き回る学習絵本や、折り紙の折り方を説明するような教育アプリなど、さまざまな分野への展開が始まっています。

AR技術は、その実用性の高さから産業界で注目が集まり、やがては10兆円市場に成長すると見込まれています。現在は主にスマートフォンでの操作を対象としていますが、近い将来には、音声で操作できるメガネ型のスマートグラスなど、誰もが気軽に利用できるアイテムが主流になるでしょう。すでに、世界の名だたる企業がこぞって新しいコンテンツの開発を進めています。

そうした、新しい時代を予感させる実践的な技術を武器に、社会の未来に貢献できる人材に育ってほしいと期待しています。

※法政大学 × CAMPFIREウェブサイト https://camp-fire.jp/channels/hosei

※API Application Programming Interfaceの略称。開発支援のために、汎用性の高い機能の仕様とルールをインターネット上に公開し、外部から手軽に利用できるように提供された仕組みのこと。

投げると色が変わるフライングディスク 「Actee」は、支援を募ったクラウドファンデ ィングで、目標額を達成。学生たちの実践 力が世の中に通用することを実証した

岩月 正見 教授

デザイン工学部 システムデザイン学科

1961年愛知県生まれ。工学博士。東北大学大学院工学研究科博士課程修了後、山形大学工学部助手、同講師、1992年法政大学工学部助教授、2005年同教授に就任。2007年のデザイン工学部設立に伴い、現在に至る。ロボットビジョン、遠隔講義システムなどに関する研究の応用から、AR(拡張現実)技術を用いた先駆的なアプリ開発に従事。現在は、研究室のみならず、システムデザイン学科の学生の実践力向上に尽力している。

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