リンク:2022年度(第6回)「自由を生き抜く実践知大賞」表彰式を開催しました
廣瀬総長より、受賞された実践事例への選定理由コメントと、エントリーした全ての実践事例にコメントが寄せられましたので、下記の通り紹介します。
受賞した実践事例以外にも、「実践知」を生み出している素晴らしい事例が数多く存在しています。ぜひご覧ください。
◆掲載内容
実践主体/実践事例名称 廣瀬総長からのコメント |
◆各ノミネート団体の実践事例概要はこちらからご確認いただけます
ホーセーイノベーションクラブ/多摩キャンパスを盛り上げる1年間の活動
現在の大学生、特に入学と同時にコロナ禍によって行動制限の中で学生生活をスタートさせることになった3年生は、コロナによって学生生活を奪われた「可哀想な世代」と見られることが少なくない。そんな中で徐々に再開されたキャンパスライフも期待したようなものではなかった。しかし、自分たちをほんとうに「可哀想」にしてしまうのは、自らを可哀想な存在と規定してしまう自分自身ではないかと気づき、自分たちがイノベーションを起こして、自分たちのいる場所(キャンパス)に、自分たちが考える素敵な要素をひとつでも加えていくために、積極的に動いた取り組み。地域の方々、教職員などとも協働することによって魅力的な活動が多様に展開され、多摩地域が充実した、わくわくするような活動の舞台になっていく過程が、文字通り「素敵」だ。
情報科学部・多摩将来計画推進委員会/青バス運行アプリで多摩ライフを豊かに
広大な多摩キャンパスにとって、構内循環バスはライフラインのひとつ。しかし、乗車区間によっては次のバスを待つよりも歩いた方が早い場合もある。次のバスがどこまで来ているか分かれば…という利用者ニーズを踏まえて、キャンパスライフの利便性を高めた取り組みだ。大勢の実ユーザが存在する情報サービスを開発し実際に提供する経験は、大きな学びの場であり、開発という作業の存在意義を実感する機会となったはずだ。この青バス運行アプリの導入後、乗車する学生の苛立ちの表情がなくなったという運転手さんの声は、その成果を示している。これを実現するため、情報科学部と社会学部の学生を中心に、キャンパス間にまたがった共同開発が行われたことも特筆に値する。それぞれのキャンパスのもつ強みを組み合わせることによって相乗効果を生む好例だ。
コロナ禍の中で対面活動ができなくなった時期に展開されたオンラインによるつながりを、徐々に対面での活動が再開できるようになった環境の中でうまく併用して「新たなつながりを創出する場」としてのボランティア活動を企画実施する取り組み。さまざまな場所においてそれぞれ対面で行われているボランティア活動を、オンラインで相互につなぐことを通して、本学の学生が活動先とつながるだけではなく、離れた場所にある活動先の人同士のつながりにも展開して行くことができる。コロナ禍のなかで獲得したものもあること、そして、それをコロナ後にも活用することで、コロナ前よりも豊かな活動の可能性があることを実際の取り組みをとおして示す好例だ。
2021年度の自校教育科目「法政学への招待」の締めくくりのワークショップのなかで、ある学生グループから出された「法政の魅力のひとつは、多様な学びが可能なこと。だったら学生だって学部を企画したい」という声を受けて始まった取り組み。近年順次整備が進んでいる学部横断型の履修証明プログラムの企画に学生が参画する機会を設けることとなった。公募の学生をまじえて企画に着手したところ、教職員からは出てこないような発想で魅力的な提案が出されたり、現在の学生の学修ニーズが明確になったことによって、これまでにない構成の履修証明プログラムの完成に貢献した。学生教職員全体の協働がもつ可能性を示す取り組みだ。
法政高校では、生徒・教職員・保護者が対等な立場で校則などの学校環境について話し合う場である三者協議会が2014年度より開催されてきたが、その後いったん途絶えていた。コロナ禍のもとにおいてその意義があらためて見直され、2021年に再開され、2022年度も継続して開催された。スマホルールのあり方と、それに伴う写真やSNSの使い方についての論点や、制服についてのルール改正などが取りあげられている。学校を構成する三者それぞれが主体として学校のルールのあり方について議論し、論点の理解を深め、それを前提としてルールを改定していくことにつながっている。それは、生徒もルールの客体ではなく、学校という社会のあり方をつくっていく主体なのだということを、経験を通して体感し、主体性を実体化していく活動だといえる。法政大学憲章がめざす「自立した市民」を育てる取り組みだ。
従来から継続して取り組んで来た換気と室内環境に関する研究成果にもとづいて、コロナ禍の中で産学連携プロジェクトとしてハイブリッド換気システムの研究に取り組んだ。換気、エネルギー、室内環境の人の生産性への影響を総合することで、感染防止のための換気量の確保というだけでなく、カーボンニュートラルにも貢献できる換気システムのあり方について提言し、国際学術雑誌にも掲載される成果を挙げた。その成果を、大学における具体的な取り組みに落とし込むために、構内に掲示されている換気についてのポスターにまとめたことも、まさに実践知として意義深い。
コロナ禍で多くのプロジェクトが中止を余儀なくされるなかで、何とか活動できる方法を模索しながら、昆虫食の社会的な普及のために、企業と連携して商品化をめざす活動を展開した。高校生のアイディアを、試作しながら検証し、社会実装のためのハードルをひとつひとつ乗り越えていく作業を重ねる経験を通して多くのことを身に付けることができたに違いない。この取り組みの成果が、近く商品化される見込みと聞く。消費者に実際に手に取って食べてみてもらえるかどうか。次の段階のチャレンジもまた実践知の涵養につながっていくことだろう。
法政大学体育会馬術部/スポーツ活動と研究教育活動の両輪『人馬のウェルビーイング』
馬との触れあいによる人の福祉、引退競走馬のリトレーニングによる馬の福祉、パラ馬術による障がい者スポーツの実践、馬糞堆肥の地域農業への還元という諸活動をつなぎ合わせることによって、相乗効果を生んでいる。馬というパートナーなくしては成立しない馬術というスポーツに、多摩キャンパスの城山地区を拠点として取り組んでいる馬術部だが、一般の学生教職員にとってその存在は場所の問題もあって見えにくい。また、馬術というスポーツそのものが現在の東京において身近なものとは言い難い現実がある。そんななかで、この取り組みを通して積極的に一般学生や地域の人びとにアプローチし、ヒトと馬のパートナーシップが持ち得る価値を広く伝える力のある取り組みは貴重だ。
チーム・オレンジ/つながるゼミ
市ヶ谷ボランティアセンターでは、コロナ前まで毎年東日本大震災の被災地における復興支援のボランティア活動を行ってきたが、コロナ禍になって現地での活動はいったん見合わせることを余儀なくされた。その間に普及したオンラインのコミュニケーション手段を活用して、2021年からは現地の方々と対話する機会をもつ「つながるゼミ」が始まった。学生スタッフであるチーム・オレンジが主体となって、大学生をはじめとする現地の同年代の人たちとのコミュニケーション機会を実現し、再開された現地を訪問しての活動と相乗効果を挙げつつあることが高く評価される。
デザイン工学部 システムデザイン学科 デザイン工学研究科 システムデザイン専攻/PBL科目作品の一般コンペによる学外評価
アイディアをブラッシュアップして実際のプロダクトデザインを行うPBL型授業は、もともと実践力を磨く効果が期待されるが、システムデザイン学科ではその授業の成果をもって外部のコンテストに挑戦し、毎年多くの受賞実績を挙げている。他流試合に臨むことによって、モチベーションを高め、先輩たちの経験を引き継ぐことによる蓄積を生かしていくことが、デザインの成果につながり、外部の専門家からも高く評価される成果を継続的に確保していることは、この授業科目を提供する教員側にも、履修する学生側にも実践知を蓄積していくことにつながっている。
エールお届け隊 by大学生/YouTubeを用いた受験生への応援活動
コロナ禍のもと、人数制限下で行われたオープンキャンパスに参加できなかった高校生のために、動画を通してキャンパスや学部、学生生活などを紹介し、受験生に大学の実像を伝え、進路選択の応援を目指した取り組み。なかでも、幅広い受験生のニーズに沿った動画は、多くのアクセス数を記録している。進路としてマスメディアを目指す学生が集う自主マスコミ講座を基盤とした活動は、参加する学生にとってもスキルを磨く機会となっており、他者を応援することが自分の成長にもつながるという好循環を生み出している。
◆各エントリー団体の実践事例概要はこちらからご確認いただけます
大学入学前から継続してきた取り組みが、法政大学現代福祉学部への進学につながり、大学で学んだことを今度は現場に還元しながら、取り組みを発展させている。学びと実践の好循環だ。
旧の法政水は、東日本大震災の復興支援という課題意識のもとで、学生主導で実現された。今度はそのリデザインを学生が主導して実現した。年度ごとに構成員が入れ替わっていく大学という場で、実践知が受け継がれていく好例だ。
「先輩学生による相談窓口」スタッフ/大学生活全般に関する相談窓口の実践
教えることほど、教える者にとって大きな学びの機会になる。先輩学生が後輩の相談に乗ることは、後輩学生の支援になるだけでなく、先輩学生にとっての学びの機会であり、実践知を獲得していく好機となるはずだ。
通信教育部の学生にとって通信で学ぶことが標準だからこそ、スクーリングなどの対面での学びと交流の機会の意義は通学課程とはまた違った重要性をもっている。コロナ禍で始まった取り組みが、対面活動が徐々に再開される中で進化していく様子が心強い。
「小学生の明日をワクワクするものにする」ことを一番の目的に、大学生が小学生と行うディスカッション形式のキャリア教育の取り組みは、大学生だからこそ持てる小学生との新しい関係性によって、両世代がともに育つカギとなっている。
モバイルバッテリースタンドに画面を表示するアイディアを核に、事業者、自治体、大学の連携によって、防災情報を着実に住民に伝えられるスキームに練り上げていこうとする実証実験。地域のレジリエンスに貢献する実践知の具体像だ。
特定の音に強い嫌悪感を覚えるという「ミソフォニア(音嫌悪症)」は、まだまだ社会的な認知が乏しい。その認知を確立し、当事者同士の交流の場を設けるために自ら「日本ミソフォニア協会」を設立し、交流会を開催するなどの取り組みに踏み出した行動力が素晴らしい。
コロナ禍によって学生たちの成果発表の場はオンラインに切り替えられたが、それを機会に、一定期間をかけてフィードバックなどのコミュニケーションができるように進化させた取り組みはまさに「コロナ禍で進化した実践知」だ。
ゼミの活動をあえてzineというアナログな形式で発信することによって、ゼミの活動を外部に向けて開いていこうとする取り組み。SNSやネットコミュニケーション全盛の現代においても紙による自己表現が絶えずに続いている理由が実感される取り組み。
長年にわたって、多くの人が四国88箇所遍路道を歩いてきた。バスや自動車が利用できる現代においても、自分の足で歩いて巡る人も少なくない。実際に自分の足ですべて歩き切ることによって、その理由や、歩くことで得られるものを実感できたはずだ。